思い出は日高に⑤ 土地の偶然
前回の記事で私は新冠生まれだと書きました。それから約30年後の2019年、同じく新冠で結納式を挙げました。一度も暮らしたことがない隣町。なのに人生の節目を二度も新冠で迎えたことになります。不思議な縁があります。
不思議な縁といえば夫との関係もそうです。出会いは仕事のつながり。付き合う前から自己紹介を通して互いの出身都道府県くらいは知っていたものの、細かな地域にまで言及することはありませんでした。
交際して驚いたのは、彼が関東出身にもかかわらず、日高、さらには静内まで知っていたこと。経験上、関東で一般的に知られている北海道の地名は札幌、小樽、函館、富良野、旭川くらい。意外と登別を知らない人も多いです。「北海道のどこ?」と聞かれて「静内」と答えても、残念ながらそこから話題が続くことはあまりありませんでした。
「なんで静内知ってるの?」。興奮する私に彼が教えてくれたのは『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』という、1994年から2000年まで週刊少年サンデーで連載されていた漫画でした。バイクで北海道旅行をしていた主人公がひょんなことから競走馬を生産する牧場の人々と出会い、成長していく物語。その舞台がまさに日高だったのです。
連載開始当時、夫は小学校6年生。同級生の祖父に馬主がおり普段から競馬中継を見る機会が多かったため、この漫画をリアルタイムで楽しみ、単行本もすべて購入していたといいます。
漫画には、今はなき静内駅舎やピュアといった実在の場所も忠実に描かれています。それを見せてもらったとき、自分の町が漫画に登場するなんて……と感動したことを覚えています。
そしてもう一つびっくりしたのが漫画の主人公が暮らしている場所です。主人公は春休みを利用して北海道旅行に出かけるのですが、実家は埼玉県の飯能市にあります。なんとそこは、私の夫の実家から車で20分ほどの距離。
私の故郷である日高が漫画の舞台になり、さらにその主人公は夫が育った場所の近くに住んでいる設定だった。現実と物語が、場所と場所が、人と人が一冊の漫画でつながった、そんな気がしました。ささやかながらとてもうれしい偶然でした。
結納式を挙げる前年の2018年、夏季休暇を利用して、夫になる人と一足先に日高を訪れました。私にとっては帰郷、彼にとっては聖地巡礼とでも言うのでしょうか。馬を見つめるまなざし、牧場を眺めながら進む大らかな歩幅。私は彼の姿を通して「ああ、ここはいい町なんだなあ」と改めて地元と出会いなおす気持ちになったものです。
※少年サンデーのwebサイトで『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』第1話が読めます!

「夏の帰省」
昔あったデパートの名前と
袖のなかをくぐる風のすずしさと
有名な競走馬の功績と
馬たちの表情の豊かさと
私が知っていてあなたも知っていることが
あなたが知っていて私は知らないことが
こんなにたくさんあるなんて
予行演習の成果はあったのかい
のびのびとした歩み
通い合わす穏やかなまなざし
乗馬のように
一歩 一歩ごと
そしていつのまにか体を慣らしていく
あなたを見てあっけにとられた
私の町は
もう私の町ではなくて
私の町を好いてくれた人と
新しく知っていく場所になる
観念してあなたと手をつなぐ