思い出は日高に⑧ 内向型人間のフェスの楽しみ方
Hi-MAGに寄稿させていただくようになってから、私よりも両親の方が張り切っているな!と思うことがしばしばあります。
前回「さくらのパン」について書いたときは、お店の看板やパンの写真を何枚も送ってくれたり、旧静内駅にできたというラーメン店「静王」について電話で教えてくれながら「食べに行ったことをHi-MAGに書けばいいじゃん。『昔はここにお蕎麦屋さんがあって、おばあちゃんとたまに食べに行きました。そんな思い出の場所で…』」などと、書く内容までどんどん決めて話し続けたり……。
「日高コズミック祭り」もそうでした。私はその前の6月に一度帰省していたため参加を悩んでいたのですが、父から電話があり「8月末帰ってこいよ。日高コズミック祭り行くんだから」とほぼ確定事項のように告げられ、じゃあ行くか!と心を決めたのです。
そうして8月29日。新冠の判官館へ向かいました。やってきたのは子どものころ以来。懐かしさにわくわくする一方、人見知りで内向的な自分が果たして「屋外フェス」を謳っているイベントを楽しめるだろうかという心配もありました。
私の中でフェスとは、人と人との距離がかなり近く、大量のお酒を酌み交わし、常に体でリズムを取りながら合いの手を飛ばす、みたいなイメージがあったのです。私は人と一定の物理的距離をとらないとそわそわしてしまうし、お酒も飲めないし、人前で声を上げたり踊ったりするのも恥ずかしい。正反対な内向型人間が馴染めるのだろうかと。
ですが、駐車場に車を止め、会場へ向かって歩いている途中でそんな心配は吹き飛びました。

馬がお出迎えしてくれたのです。ここでぐっと心を掴まれ、のどかな雰囲気に癒されながら会場へ入ると、人々がとてものびのび、そしてのんびり過ごしていました。

私たちはちょうど三角みづ紀さんの詩のパフォーマンスが始まる直前に到着。設置されていたテントの下に簡易椅子を置いて耳をすませました。ご自身の声をその場で録音し、繰り返し再生される上にまた声を重ねていく。ぽとぽとと垂れる雨音のような静かな響きが、次第に広がってその場を包み込んでいくようで、新鮮な体験でした。
その後も、初めて知ったアーティストの方々の楽曲を聴いて「いい曲だね」と言い合ったり、巨大な旗を振りながらソーラン節を踊る方の躍動感に驚いたり。クレープ、揚げたい焼き、ポテト、焼鳥、豚の唐揚げなど、フードも堪能しました。両親はオリジナルカップを買ってビール!

興味をひかれたのは、日高7町(日高町、平取町、新冠町、浦河町、様似町、えりも町、新ひだか町)を紹介する特設ブース。その町ごとの特産品やアピールポイントが紹介されていて、自分の町以外の魅力も知ることができました。

お話を聞かせてくれたスタッフの方は、「7町が一緒に長く生きるために、これからは関係人口を増やすことが大切」だと仰っていました。私はいま離れて暮らしているけれど、愛着のある地元で生きている人たちがいて、新しい動きを作りながら地域を盛り上げ、守ろうとしている。そんなことに今さらながら気づかされました。

その後も音楽と景色を楽しみつつ、両親とのんびりお喋りして過ごしました。私と母はときたま現れる「しゃぼん玉の人」に目が釘付け。ゆったりした動作で無数のしゃぼん玉を空に飛ばす姿はまるで魔法使いのようで、光の角度によっては荘厳な絵のように見える瞬間もあり、「あの服装で、あの背の高さで、あの持ち方で、あの人じゃないとダメなんだよね」と知った風な顔で頷き合いました。
また、写真には収められませんでしたが、ピーマンの格好をした人が突然「ピーマンでぇす!」と現れ、子どもたちが「ピーマンだぁ!」と言って追いかけていく場面を目撃したときは、あまりのそのまんまさに笑ってしまいました。

他にも、判官館にある大きな滑り台を見て幼いときの思い出を話したり、知り合いに挨拶したり、きれいな空を写真に収めたり。内向型など関係なしに、懐の広いフェス会場で、夜までひとときの非日常に浸っていられました。

「ほどける」
――小さいあんたが駄々をこねた
自分もああやって滑りたい!
目をやると 体の大きな男のひとが
広い胸で子どもを抱えて
上から下までひと滑り
私もがんばってやったけどさ
終わりの方で我慢していた腕がほどけちゃって
あんたが前にぽーんって放り出されて
泣いちゃって
そしたら次はその男のひと
たくましい腕に子どもをぶらさげて
上から下までひと滑り
小さいあんたが
自分もああやって滑りたい!
勘弁してよって思ったね
もう、がんばってやったけどさ――
暮れていく空の向こう
先の方だけが見える滑り台
私は知らない子どもの重さを
若い母の腕が必死に抱きとめようとしている
自分の中ではすっかりなくなっていた記憶が
まだここで響いていることを知って
流れてゆく音楽と
交わされる言葉と
無数のしゃぼん玉
人の数だけの思い出が
ちかり光って
きらり映って
磨かれてまた胸に戻っていく