沙流川は野鳥の楽園
〜カヌー下り〜
晩秋となった11月中旬、平取町の沙流川でカヌー下りをする機会に恵まれた。未経験の私を誘ってくれたのは、安部怜さん。安部さんとパートナーのさや子さんは、支笏湖のほとりでマフィンと自家焙煎珈琲のとてもとても素敵なお店「ペンネンノルデ」を営んでいて、安部さんはそのかたわらカヌーガイドもされている。日高方面の川も開拓中とのことで「フィールドワークに参加してみませんか?」と声をかけてくれたのだった。

防水ドライスーツに身を固め、いざ出陣。今回は平取ダムから下の14kmを3時間かけて漕ぐプラン。ダム上の沙流川は激流として有名らしい。


私は最前列でこんな眺め。カヌーのポジションは想像していたより低く、まるで川面に座っているような感覚が心地よい。




1時間ほど下り、途中の中洲で休憩。日高山脈を流れる沙流川は岩石の種類が豊富と聞いたのを思い出し、石観察の時間に。専門的な知識はないので、外見を楽しんでみる。沙流川、日高の岩石情報はこちらも参照ください→ 2億年に触れる〜日高山脈記#1/日高山脈博物館〜


正午に近づくと少しづつ晴れ間が出てきた。ネイチャーガイドをされている島田さんが「シマエナガの鳴き声ですね〜」と教えてくれるも、小さすぎて姿は見えなかった。



「沙流川は緑がかった色が特徴的ですね。石のせいなのかなあ?」と安部さんのコメント。実は、水質日本一に選ばれたこともある川なのだ。

明るくなった空に突然現れたのはカラスの群れ。カラスの群れなら別に珍しくもないけれど、さすがにこの数にはびっくり。


ちょっとホラー感ただようカラスの大群を抜けてすぐ、今度は優雅に白鳥が渡って行く。緩急ある演出。


再び頭上に黒い影。しかし、このシルエットはカラスではないし、トンビよりずっと大きい…
「ワシだよ!」と島田さんの声。



なんと、オオワシの群れだった。「冬だけ北海道に渡ってくるのが普通だけど、こんなにいるってことは、年中ここに住み着いてるワシがいるのかもしれないね」と島田さんが解説を入れてくれる。


オオワシは翼を広げると2メートルを超える、日本最大の猛禽類。黄色い嘴、翼の色形、肉眼でもそれらがはっきり見えた。「我は空の覇者」と言わんばかりの堂々とした姿で、羽ばたきもせず飛んでいく。
生物として、ここまでの圧倒的な存在感って人間が持ってはいないものだと思う。それがたとえK-1ファイターであったとして、鍛え上げた肉体も年をとれば萎れるのに対して、ワシは死ぬまでワシだ。今は万物の霊長を自称する人類も、何万年もの間、大型捕食動物の間でコソコソと怯えながら生きてきて、その間もワシやライオンは延々と食物連鎖の頂点に立ち続けてきた。つまり、種としての年季が違うということなのだろう。「器用な猿が川に戯れておるわ」なんて、空から見下ろしているのだろうか。ワシたちが去った後、千歳の空にむかって戦闘機が一機飛んでいった。



波を越え、橋を見上げてカヌーは進む。



「あ、ほっちゃれだ」
そう言うと、安部さんはカヌーを岸につけてくれた。
北海道に生まれてはや40年近くなるが、私はこの「ほっちゃれ」という言葉を初めて聞いた。こうして産卵を終え、死骸となった鮭を指す方言らしい。目玉は柔らかくて栄養があるので、真っ先に鳥たちのご馳走となる。泳ぐ姿こそ見られなかったけれど、海から鮭が遡上するこの時期は、鳥たちにとっても食欲の秋なのかもしれない。


やがてカモメが現れ、もうすぐ河口だと知らせてくれた。ゴールが近い。

カラス、白鳥、鴨、サギ、ワシ、カモメ…ゆったりとしたカヌーの流れのなか、時折訪れるハイライトといったリズムで鳥たちが目を楽しませてくれ、沙流川の恩寵にあずかったカヌーデビューとなった。しかも、この後レストラン「コトナ」さんへ向かう道中では、タンチョウまでも目撃することに。「釧路ではツル◯ドラッグの前にいたこともありますよ。意図的だとしたらセルフプロデュース能力が高い天然記念物ですよね」と釧路出身のさや子さん。本場釧路ともなると広報戦略に磨きがかかるようだ。
日常の風景、スピード感から解き放たれるカヌー下り、新しい遊びを教えてくれた安部さんたちに感謝!
最後に安部さん作成のフィールドノートをご紹介。沙流川でカヌーを楽しまれる方はぜひご参考に!
