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お米畑は黄金色

「入植した祖父が新冠町美宇(びう)地区に農地を構えてから今年でちょうど50年、米農家として僕で三代目です。」
そう語ってくれたのは米農家を営む鎌田直樹さん。かつては新冠でも稲作はさかんに行われていたが、今はずいぶん少なくなったと聞く。

忙しい時期にも情報発信をするようにしているという鎌田さんのインスタグラムは、農家さんの日々の苦労や魅力が詰まっている。農業に関心がある方にはぜひ覗いてみてほしい。https://www.instagram.com/naoki.kamada.39

「この仕事に答えは無いです。気候も変わるし、永遠に考え続けないといけない。同じことを続けていてもだめなんです。去年からは田んぼにせず、水をあまり使わない乾田直播(かんでんちょくは)という栽培方法を試しています。『畑の米』ですよ」

乾田直播とは、水を張っていない乾いた状態の田に種子を播き、苗立ちした後に水を入れる農法のこと。田んぼではなく畑で行われるカリフォルニアの米栽培も参考になっていると聞いた。

「草刈りの6月から3ヶ月間が一番大変な季節で、収穫時期は毎日夜中まで仕事があります。だいたい一人でやっていますが、どうしても友人知人に頼む必要があって、農業体験事業とまではいかないけど、来てくれたら仕事はあるよ、という感じで手伝ってもらっています。僕にも息子がいますが、農家の息子だからって農業に適性があるとは限らない。だから外の人に継いでもらうのも良いと僕は考えています」

刈り取られたお米はコンバインからトラクターへ。映り込んだトンボが実りの秋を滲ませた。

鎌田さんの『畑のお米』への挑戦。私も稲作といえば水田のイメージしかなかった。乾いた土で稲を育てることについて、深掘りをさせてもらう。

「乾田農法は北海道では数年前から少しづつ増えています。北海道では麦栽培の経験を土台にすることができますから。この農法では特殊な肥料が鍵になります。僕はアサヒビールのビール酵母を使った肥料部門や、マイコス菌の商社との繋がりから特殊な肥料を使っています。菌を撒くことで、ポジティブストレスと言われるものを稲に与える仕組みです。カビが根に付くことで、稲にとっては病気の疑似体験となり、強くなろうとして根が伸びるんです。いわば稲作の変化球で、それを嫌がる人もいますが、僕はまずはやってみるというスタンス。確かに発芽率が上がる印象がありますよ」

さらに、新冠町で乾田農法を行うことにはどんな意義があるか尋ねてみた。

稲作の後継者は、やはり少ない。人手が足りないと、水田での水路の維持が難しくなります。また、大きな災害などで送電が滞ると水路も止まってしまいます。こうして乾田農法を自分でやってみることで、雨の水分だけで稲を育てられることは立証できました。今のうちに技術を習得しておかないと、いざ有事になってからではどうしようもない。設備の準備も含めてすぐにはできないものですから」
まさに今年は列島が米価格の高騰に悲鳴を上げた。自然災害も増えるなか、農業においてもリスク管理は一層重要になりそうだ。
「新冠では牧草地が多いので、そこから乾田の稲作に転用なども考えられます。同じものを育て続けると土の中の栄養素が偏ってしまい、それは牧草地でも同じです。稲を育てたりすることで、偏ったバランスを元に戻してあげることができる。稲は土にとって良い肥料なんですよ。新しい農法を始めるにあたって不安はありましたけど、もう清水の舞台から飛び降りてしまったので、成功するまで自由落下みたいなものです。力づくでも正解に辿りつくぞ、という意気込みでやっています。今度、お米食べに来てください」

後日、収穫したての新米を分けていただいたのでレポート!

我が家では鍋で炊いているので、お焦げつき。
秋鮭ときのこの炊き込みご飯

「ななつぼし」らしいほどよい甘みとさっぱりとした食感。「畑で穫れた」と言われなければ違いはわからないと思う。もちもちで甘みの強い品種に比べ、「ななつぼし」は主張の少ない、おかずを引き立てるお米と。お味噌汁とシンプルにいただいても良し、炊き込みご飯にしても良し。タイカレー、天丼、オムライスと色々試してみましたが、本当にどの料理にもよく合いました。冷めても美味しいのが特徴なので、お寿司、お弁当にも活躍しそう。

鎌田さんのお米は、畑からほど近いディマシオ美術館で購入することができます。畑のお米、ぜひ味わってみてください!!

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