Hi-MAG北海道・日高の
ウェブマガジン

日高を家族で旅すると -前半-

はじまりはシンカン

ある日、「新冠 のウェブマガジンが立ち上がる」との社内通達があった。その時の私は「新刊 のウェブマガジン」の誤植だろう、と勘違いしたくらい北海道日高地方にはご縁がなかった。
そんな日高地方に無知な新入編集部員の私は、まずその土地を自分の目で見て感じなければと日高地方を家族で旅する事を決めた。その3日間の旅行でジワジワと感じたことを旅日記にした。

旅の計画に当たり、キャンプ好き夫婦としては冬の新冠の自然を堪能するため「Di-Maccio Glamping Village(ディマシオ・グランピング・ビレッジ)」でのグランピングをメインイベントとした。
この施設は「太陽の森 ディマシオ美術館」の広大で自然豊かな敷地内に3Dプリンター建築の技術を用いたグランピング施設である。最近息子が3Dプリント建築の動画にハマり「すりーでぃをする人になりたいー」と言っていたところに、この施設を発見した。

BOOK OFFにしか行きたがらない出無精の娘(11歳)と、臆病者だけど好奇心旺盛な食いしんぼう息子(3歳)を連れていざ向かうことにした。

新千歳から新冠町へ


空港のレンタカー屋で車両を待つ間、北海道全域を扱うガイドブック3・4冊をざっと見る。すると日高地方だけ地図上真っ白、情報がスカスカだ!? 驚くと同時に、人知れずたたずむ北海道を味わってやろうではないかとワクワク感が増した。
空港から車で1時間半。新冠町へ入ると、とにかく馬、馬、馬! 息子は興奮気味に窓にかじりつく。馬の可愛さは車窓からも伝わってくる。

時折見かけるサイロは、この旅でジワリ私の心を奪ったものの一つになった。

 
見渡す限り太平洋!
北海道の形を俯瞰で確認できるかのような、見晴らしの良い広大な海岸線。
ここは何だか人間を自由にしてくれる大地のように感じて、心がフワッと開く感覚に陥った。

「もうここは日本じゃないよね」つぶやく娘。
私もそう思ったし、出不精娘の心をこの土地が早くも掴んだ気がして内心「やった! 」と思った。

いよいよ新冠町にある「Di-Maccio Glamping Village(ディマシオ・グランピング・ビレッジ)」に到着。受付で、美術館の(専務理事)谷本さんにグランピングの説明を伺う。美術館は廃校した小学校の校舎をリノベーションしてできており、木の温もり残る建物に懐かしさを感じる。「泊まれる美術館」というだけあって、グランピング利用者は貸切でナイトミュージアムの体験ができる。美術館を貸切だなんて!プレミア感が半端ない。早速、谷本さんはグランピング棟へと案内してくれた。

夢だった3Dプリント建築のグランピング棟を目の前に、出不精娘も大興奮で駆け寄る。「タマゴのおうちへ行けるのっ?!」とずっと楽しみにしていた息子は、出発の朝に生卵を手に握りしめて空港へ向かおうとしていたほど・・・。

間も無くして、雪が降ってきた。谷本さんは「初雪ですよ、おめでとうございます!」とおっしゃった。そうか、“雪のグランピング”なんて確かに贅沢な響き!

宿泊棟は四角(ツイン)と卵型(ダブルベッド)の2タイプ。
それぞれ横に風呂トイレの別棟と食事スペース、ハンモックがついている。
壁肌は3Dプリンターならではの横縞が走る。
それを見越した幾何学模様がかっこいいデザイン。

ナイトミュージアム

早々に日が沈んだので、娘に促されてナイトミュージアムへと向かった。
しつこいが、出不精娘がBOOK OFF以外の場所へ率先して行こうと言ったこと、ここについてから終始能動的なことに母としては早くも大満足だった。

看板猫のマスク君が出迎えてくれた。20歳を超えているというからびっくり。
「撫でてあげた分だけ長生きするんですよ」と谷本さん。
夜の静けさと、ディマシオの芸術表現は相性がいい。昼の光とはまた違った作品の魅力を味わえるのは、グランピング宿泊者の特権である。

口の中の祭典

グランピングへ戻ると食事の準備が始まっていた。炭を入れてBBQへ取り掛かる。写真をご覧いただければ料理の旨そうなことは一目瞭然だが、念のため文字でもお伝えする。

こぶ黒牛ステーキは口でとろけ、タラバガニは頬張ると、口の中が肉厚弾力祭りと化す。つぶ(貝)のアヒージョは、オイルまで飲み干したい程の旨味エキスが染み込んだオイル。さらにタコの釜飯はこれでもかという細切りの生姜と蛸の相性が抜群だったし、最後のシメの参鶏湯の鶏は、ダッチオーブンで煮込まれ骨まで食べられそうだった。

あぁ、美味い。

一同は美味さに衝撃を受けた。3歳君は「カニ! 」しか言わなくなっていた。

さすがに冷え込んできたので薪で暖をとる。火の粉と雪がなんとも美しい。

本当に冷えてきたら、目の前の暖房が効いた暖かい寝室に飛び込めばいいのだから遠慮なくアウトドアを堪能できる。大自然の寒さと極上の暖かさを数歩でコントロールできるのが冬のグランピング。

グランピングの夜更け

この日の寒さも頂点に達する。娘に至っては「北海道って暑い時期あるの?」とつぶやいていた。子供達は眠さの限界まで楽しみ、すっと寝ついた。私もベッドに入ると、まるで本物の卵の中で白身に包まれたような心地になる。

卵の中で、姉弟の身も心もいつもよりくっついた。こんな子供達の光景を目にするひと時が「幸せ。」この一言に尽きる。

真夜中3時。暖房を切っていても卵の中は汗ばむほど暖かい。

ふと目覚めたので星を見てみようと外へ出ると娘も目覚め、つられて外へ。そこには「星屑」という言葉が相応しく、粉のように細かい星まで見えた。後日聞いたら日高は天体観測の人気エリアとのこと、納得。写真は撮れなかったから、ぜひ訪れたらご自身の肉眼で!

絶叫ビーフシチュー

翌朝、布団の温もりに負けて寝坊。早朝の自然を散策しようと思っていたが到底無理なことだった。

前の晩から気になっていた、冷蔵庫に用意された何だかワクワクな朝食セットを思い出し身体を起こす。いつもなら、朝はもぞもぞの子供たちも率先して調理に加わる。ホットサンドが焼けてパンとハムにチーズがとろける香りがしてきた。

「いただきます! 」

数々のファミレス(比較にならないけど)でビーフシチューを食してきた娘がそれを一口いただき絶叫した。

「おいしいぃーーー!!! 」

控えめに言っても、世界で一番美味しいシチューと言うではないか。口を閉じると高級な牛肉の脂味と香りが鼻を抜けて脳に染み渡る。革命だ! まさかこんな素晴らしい朝食で1日をスタートできるとは。 

あぁしまった! 書いていることがほぼご飯のことになってしまっている! でも、「降参です! 」と言いたくなるほど美味しいから仕様が無い。

谷本さんは「自分たちが食べて一番美味しいかったメニューを提供しているんですよ」と話していた。訪問者への愛情を感じる。

朝のミュージアム。
夜とはまた違ったディマシオを味わうことができる。

美術館へ立ち寄ると、いつも笑顔で猫のマスク君と一緒に出迎えてくれた谷本さんは、ディマシオ美術館と共に四季を迎えていらっしゃるそうだ。真冬になると、ディマシオ美術館も閉館する。寒さと雪で人は訪ねて来ず、生き物もいなくなり無音の世界となるらしい。「それもまた美しいですよ」とおっしゃっていたが、東京育ちの私には想像を絶する世界。いつか訪ねてみたいと思った。

谷本さんと握手で別れ、予約してくれていた乗馬クラブへと向かった。

駐車場にいた警備員とチンパンジーのアートにもさよなら。

(続く)

(Information)
太陽の森 ディマシオ美術館・グランピングビレッジ
0146-45-3312
https://www.dimaccio-glamping.jp/