第二回道産詩賞 結果発表

3月28日に俊カフェにて開催された奏詩会#4で、第二回道産詩賞の結果発表が行われました。
審査員の御徒町凧、三角みづ紀が145篇の応募作の中から、以下の4つの詩を受賞作として発表しました。(許可をいただき掲載しています)
○道産詩賞
「東京」 後藤颯汰
僕は東京に降りたったのです
東京はなんてことのない街でした
知らない人たちが
知らない顔をして
僕のことを
見て見ぬふりする
東京は見覚えのある街でした
僕は握手をしたい
今まですれ違った人すべてと
僕は握手をしたい
僕を嫌いになる人すべてと
僕は握手をしたい
僕は握手をしたい
僕は東京に降りたったのです
今日が僕の意味でした
あの街で
暮らしてきたことの
○Hi-MAG賞
「十階」 白水ま衣
広辞苑を引かなくても
エイミー
君が、私の親友であったことに間違いはない
ふくおかって ゆき、つもらないんですよ
北海道からお越しのお客様が
突然、大きな花束を貰ったかのように 驚いてみせる
傘、一本で生きていくと決めてから
親友は持たず 作らず 持ち込ませず
何も降ってこない
そんな日は、空が降ってくるんだ
部活帰りに
エイミーが買うむっちゃん万十は、いつもチョコレートだった
なんでチョコレートなの?
グリコより文字数が多いから
どうして君のことエイミーって呼ぶようになったんだっけ
若草物語ごっこが終わらないからじゃない?
エイミーが小樽の大学に進学するため、福岡を発つ日
焼き立てのむっちゃん万十を、エイミーに持たせた
むっちゃん万十はカナヅチだから
君が むっちゃん万十を北海道に連れて行ってほしい
むっちゃん万十が金槌なら
釘は あたしだね
徒歩で北海道に行くと言っていたエイミーは 予想していた通り
エイミーの親衛隊が用意してくれたパラシュートで、北海道上陸に成功したのだった
いつか、私たちも
青空文庫のように疎遠になるんだろうね
或る一冊の本から垂れる栞紐が、何者かによって切られたことにより
エイミーは死んだ
福岡に住む親友は、むっちゃん万十のカスタードクリームが好き
エイミーが死んだ日の、前日
彼女のスケジュール帳に、そう 記されていたという
天国では 傘のことを、十階と呼ぶんですってよ
無言電話、だと気が付くまでの 無音
雪が降り始めたことは分かっている 窓を開けなくても
○審査員賞 御徒町賞
「縁日」 河口真哉
女は中島公園の縁日で金魚をすくい
それを食べ生きながらえていた
六畳の畳の部屋に住んでいて
風呂もトイレも無く
窓には元々は白かったのだろうが
黄ばんだ布が掛かっていた
洋服は赤いワンピースが1着あるのみで
気付くとそこで暮らしていた
部屋には大型の水槽が5つあり
そこで金魚を増やしていた
金魚は身動き取れないほどいて
女は金魚に空き地の雑草を
乾燥させ擦り潰した物を与えていた
女は1日に1度水槽に手を突っ込み
1匹だけ驚掴みでとりあげ
上を見上げ口をあんぐり開け飲み込む
そして暫くして口から吐き出し
畳の上でぬめりした金魚を見つめ
今度は四つん這いになり
金魚を吸い込んだ
そして口の中で転がし
ばりばりと音を発てて食べた
女の唯一の楽しみは中島公園の縁日で
活きの良い金魚を掬い食べることである
○審査員賞 三角賞
「新千歳空港―札幌間」 黄理愛
近づきながら
次のさようならを言っている
地元はいつも
横へ横へ流れるものだった
16:42
次は恵庭 恵庭
夜に向かいつつある空
四角くともった明かりで
家々は凍えずにすむ
光の柱のように
すばやく明滅する一帯
白樺の群れは映写機にもなる
そうして開けた先にまた
海のようにたゆたう土地があるのだった
17:01
夕焼けを乗せたまま汽車は走る
乗客たちの影が浮かびあがる
街が近くなってゆく
汽車は必死に追いかけている
追いかける 追いかける
いま 帰ってきている
間違うことなく家への道を辿っている
それなのに目に入るのは
後方へ後方へ送られてゆく景色
街は決して急かさないが
15歳の
あるいは20歳や26歳の
そして34歳の時刻表は
もどかしくドアを開け閉めしながら
何度もこちらを振り返る
ずっと遅れている
ずっとずっと遅れているのだと

以下に、三角審査員より寄せられた選評を掲載します。
・・・
3月28日の奏詩会#4で、2026年度の「第二回 道産詩賞」が発表されました。会場の俊カフェに来てくださった方、あるいはインスタグラムの配信を観てくださった方は、御徒町さんの選考理由を聞いているでしょう。
わたしは生の時間というか、イベントの際に喋るのが、あんまり得意じゃないです。それなら話すことを用意してくればいいという考えもありますが、イベントはライブで、しかもひとりで喋る時間じゃない。だから用意するのは、妙な心地になってしまうのです。
わたしはやっぱり、文字でお伝えするのが合っているなあってつくづく思いました。
前置きが長くなったけれど、そういう経緯があって、ちゃんと文字で伝えたいと感じて、書いています。
第二回 道産詩賞は、後藤颯汰さんの「東京」です。
とても短い作品で、北海道を示唆する言葉は「あの街」しかない。しかし連呼される「東京」の文字によって、どうしようもなく「あの街」が漂ってきます。わたしは作者ではないので、どの街かはわかりません。札幌なのか旭川なのか函館なのか。でも道産詩賞に応募した時点で、「あの街」は北海道内であることを示している。そして、明確にしないからこそ、多くの方が共感する内容になっているのではないでしょうか。東京を描くことで、北海道の印象が強く残る。道産詩賞にふさわしい1篇でした。わたしがとりわけ好きなのは「僕は握手をしたい/今まですれ違った人すべてと/僕は握手をしたい」のくだりです。
Hi-MAG賞は、白水ま衣さんの「十階」です。
この作品は、ほんとうにほんとうに胸の奥に突き刺さりました。ぜんぶで145篇の応募があって、それを3回くらい通して読んだのですが、エイミーの文字が頭から離れなくなりました。「小樽の大学に進学するため」に北海道へ行った「エイミー」と、福岡にいる「私」の物語です。正直、すべてを理解できてはいないと思う。けれども詩の解釈ってさまざまだから、それでいいのだと思う。何度も読み返したくなる「十階」を、なんとしても賞に選びたかった。なので、日高賞はHi-MAG賞になりました。賞の名前を変えてしまう力がある詩です。「無言電話、だと気が付くまでの 無音/雪が降り始めたことは分かっている 窓を開けなくても」の締めくくりが静謐で切実で、鳥肌がたちます。
審査員特別賞 御徒町賞は河口真哉さんの「縁日」です。
こちらは御徒町賞という名の通り、御徒町凧さんが選んだ1篇です。これを選ぶのか!という驚きと納得が同時におしよせました。御徒町さんがおっしゃる通り、全応募作品のなかで、もっとも異色です。「中島公園の縁日」とあって、北海道神宮例祭を連想しました。そのことかなって話したら、御徒町さんが「え!これ本当の話?」と言っていたのがとても記憶に残っています。たぶん、いない。いたら、こわい…。金魚を食べる女の暮らしの物語は、詩はこうあるべき、みたいな固定観念を軽々と超えていくみたいな佇まいをしていて、衝撃を受けました。こんなにも自由に綴ることができるのですね。
審査員特別賞 三角賞は黄理愛さんの「新千歳空港―札幌間」です。
それぞれ選びたい作品を選べるのが、審査員特別賞の良いところ。わたしはいくつかの作品で悩んだすえに、決めました。札幌駅へ向かう汽車より見える光景が描かれているけれど、主体をあらわす文字がないのです。「私」なのか「僕」なのか。それゆえに、わたしたちみんなの物語として届きました。且つ、「街は決して急かさないが/15歳の/あるいは20歳や26歳の/そして34歳の時刻表は」などの情報はあっても、主体の感情はあらわになっていない。風景に投影される心の動きは、明るくないのに暗くもなく、ふしぎな読後感を味わいました。いつだって迷子であるかのような空気が流れていて、共感したのです。
今回の受賞作4篇、そして昨年の受賞作5篇に共通しているのは、読み手の心をしっかりと掴んでいるという点。内容はそれぞれ違うけど、北海道が滲み出ていて、選考委員をも揺さぶってくれる作品群だと思っています。
今後も道産詩賞は続いていくはず。たくさんの詩に出会えることを、いまから楽しみにしています。
あ!お米や美味しいものなどの賞品はあるけれど、記念となるものがないねって話になり、道産詩賞を受賞された方にはいいものを贈りたいです。こちらは進行中です。
また、詩でお会いしましょう。

・・・
沢山の素敵な作品を寄せていただいたこと、編集部一同より改めて感謝申し上げます!